SCENE1 |
CUT1 |
| se.道路沿いクルマの通過音、浜辺の音 |
智彦 | くそっ、また馬鹿にされる! 明日にはもううわさが広まってるんだろうなぁ。これだから田舎はやだ! 絶対都会に出て大金持ちになって、あの女、見返してやらぁ! その時になって泣きついてきてもしらねぇからな! くそっ! |
| se.缶を蹴る あれっ、シーズンオフなのに浜に人がいる。振られて入水自殺でもすんじゃねぇだろうなぁ。振られたのは俺もだ、人生相談でも乗ってやっか。 |
| se.クルマの通過音FO. 浜辺の音は続ける。 |
| TA.人魚 |
CUT2 |
智彦 | おーい! あんまり沖に行くと危ないぞ! 戻ってこーい! |
人魚 | 言われなくてもそっちに戻りますよ! |
| P. |
智彦 | (びっくりして) えっ、えええっ! ばっ、ばけもの〜!! |
| bg.CI |
人魚 | (焦った言い方で) ちょっ、おちついてください。ね、静にしてくだ… |
智彦 | だっ、だって、おまえ何なんだよ! |
人魚 | (ここから落ち着いて) 見ての通り、人魚です。 |
智彦 | え〜、見ての通りったって、俺、人魚なんて見たこたねぇよ。(ここからお気楽に) あっ、わかった、この足の部分、つくりもんだろ! |
人魚 | 違います。本物の人魚です。 |
智彦 | よくできてるよなぁ、この尾っぽの部分なんて特にさぁ。 |
人魚 | からかわないで下さい! |
智彦 | からかってるのはそっちだろ! |
人魚 | いいえ、さっきから、あなたを待ってました。人魚のシャロンです。 |
智彦 | 本当に人魚なの? |
人魚 | さっきから言っているとおり、人魚です。シャロンと申します。 |
| bg.FO. |
智彦 | へぇ、本当に居るんだぁ、人魚って。こんなところで見られるとは思わなかったぜ。 |
人魚 | それにしても、ここの海はひどく汚くなりましたねぇ。 |
智彦 | えっ? あぁ。親父がよく言ってるよ。この海も昔はもっと青かったって。 |
人魚 | そうでした。私が昔来た時はもっときれいでしたからね。 |
智彦 | へ? 昔っていつ? |
人魚 | そうですね、20年くらい前になると思います。 |
智彦 | はぁ? じゃ、今いくつなの? |
人魚 | 65歳です。 |
智彦 | エッ? 65歳〜! |
人魚 | えぇ、人間でいうと丁度二十歳くらいですか。人魚は年をとりにくいんですよ。ですから、私が以前ここに来たのも人間でいうと高校生くらいになるんですよ。きれいでしたよ、そのころの海は。 |
智彦 | あぁ、今じゃ、観光客がやりたい放題汚して行くからな。 |
人魚 | それだけなんでしょうかね。 |
智彦 | えっ? |
| P. |
人魚 | 智彦さんですよね。 |
智彦 | (改まって)はい。そうですけど、 |
人魚 | 本題に入りましょう。あなたさっき、紅実子という女の子に振られましたよね。 |
智彦 | 余計なお世話だ! |
人魚 | それで、私達、非常に困って居るんですよ。 |
智彦 | えっ、俺が振られたのとどう言った関係があるんだよ。 |
人魚 | あなた振られた時なんて言われました? |
智彦 | 私には彼氏が居るからって...。あぁ!もう、せっかく忘れそうだったのにまたぶりかえしてきたぜ! 明日学校行きたくねぇ! |
人魚 | 紅実子さんとその彼氏の関係に問題があるんですよ。 |
| bg.CI |
智彦 | はぁ? |
人魚 | ここだけの話ですよ、その紅実子って女の子も、実は人魚なんです。 |
智彦 | えぇぇぇぇ! だって、普通の顔に普通の足だぜ。 |
人魚 | えぇ、見た目は。しかし彼女は人魚の王女で、いまは修行の身なんです。今は自分で解らないでしょうけど、いずれ人魚だと解り帰って来るんですが、よからぬ占いが出てるんですよ。 |
智彦 | 占い。そんなのあたるのか? |
人魚 | えぇ、半端じゃありません。今日あなたがここを通りがかるのも占いが出ていたからで、あなたが選ばれたのも占いからです。 |
智彦 | 何か信じらんねぇけど、で、どんな占い? |
人魚 | 交通事故で王女と今の彼氏が、1ヶ月後に死ぬんです。 |
智彦 | え〜っ、そっ、そんなぁ。 |
| bg.FO. |
人魚 | 王女が修行中に死んでもらっては困るんです。そこで、あなたに活躍して欲しいんですよ。 |
智彦 | は? おれが? なにすんですか? |
人魚 | 王女を振り向かせるだけで結構なんです。そうすれば二人の仲は裂け、王女は死ぬことはないでしょう。 |
智彦 | 俺今振られたんだよ。そんなにうまく行くわけ無いじゃん。 |
人魚 | 言い方は悪いんですが、王女にあった口説き方をみっちりレッスンするんでご心配なく。それと、ある程度の報酬も出します。 |
智彦 | その話、のった。 |
人魚 | そう来なくちゃ。それでは、明日の早朝、誰もいない時間にここに来て下さい。あと、このことは誰にも言わないで下さい。この姿を他の人に見られると、私はこの世にいることができなくなります。 |
智彦 | 解った。誰にも言わない。それじゃぁ。 |
CUT3 |
智彦mono | それは、紛れもなく人魚だった。もちろん、そんなの初めて見た。ピンク色の尾びれを靡かせて、貝殻の衣装をまとったその姿は、おとぎ話でも見ているかのように美しい人魚だった。明日、浜辺に行くのが楽しみで仕方がなかった。 |
SCENE2 |
CUT4 |
| bg. |
| se.波の音 se.砂浜を走り近づいてくる。 |
智彦 | はぁ、はぁ、待った? はぁ、はぁ、 |
人魚 | お待ちしていました。まぁ、いいでしょう。では、最初のレッスンから始めましょうか? まず、話し方です。(このあたりから台詞FO.) |
智彦 | え? 話し方? |
人魚 | えぇそうです。王女様。いえ、失礼。紅実子さんは話し方が端正な人が好きです。ま、話し方といえば第一印象を決める大切なポイントとなりますから、紅実子さんに限らずたいていの女性は話し方が何気ない人、そして話題に事欠かない人に好印象を持ちますよ。 |
智彦 | シャンゼリオンさんでしたっけ? |
人魚 | いいえ、シャロンです。 |
智彦 | あぁ、悪い悪い。シャロンさんね。なんか、その、敬語で話されるととてもやりにくいんだけど、どうにかならない? |
人魚 | あっ、すいません。でも、どうしても仕事の癖なんで、抜けないんですよ。直すように努力はしますけど、そんなにやりにくいですか? |
智彦 | うん、ちょっとね。 |
智彦mono | (台詞FO.からかぶせて) それから、特訓が始まった。だけどなんかぎこちない。人魚のシャロンが敬語を使って来るんで、なれてないと何ともぎこちない。それに、何かナンパのレッスン受けているようで、変な感じがする。いや、それだけじゃないんだけど、何ともいえないぎこちなさがある。(台詞FI) |
CUT5 |
bg. |
| se.波 |
智彦 | おーい。 |
人魚 | あ、やっと来ましたね。5分遅刻です。 |
智彦 | 5分くらいいいじゃんか。(このあたりから台詞FO.) |
人魚 | いけません。これは、紅実子さんだけでなくすべての女性に当てはまりますが、時間にルーズな人は嫌われますよ。 |
智彦 | それよりどうした、その傷。 |
人魚 | えっ、これですか? 割れた瓶のかけらが落ちてて、切ってしまったんですよ。 |
智彦 | 大丈夫か? 気をつけてな。最近おおいから、そういうゴミ。それとさ、シャロンさん。その敬語どうにかならないかな? |
人魚 | あ、すみません。まだなれてないものですから。 |
智彦 | だから敬語であやまるなって。 |
智彦mono | (台詞FO.からかぶせて) 2日目、昨日と同じでなんかぎこちない。いや、昨日のレッスンよりドキドキする。何でだろう。やっぱり、相手が人間じゃないからかなぁ。(台詞FI) |
CUT6 |
智彦mono | 一週間たって、シャロンは俺に敬語を使わなくなった。俺をまるで昔からの友達のように話してくれるようになった。でも俺は、一週間たってもまだ、心臓がドキドキするのがおさまらなかった。それは、シャロンが人魚だから、という単純な理由だけじゃなかった。もう、紅実子なんて、昔好きだった人なんてどうでもいい。シャロンに心が引かれてゆく、そんな胸の高まりだということを知ったのはこの時だった。 |
SCENE3 |
CUT7 |
| se.波の音 |
人魚 | さぁ、今日もレッスンしようか? |
智彦 | うぅん。 |
人魚 | えっ? 智彦君、どうかしたの? |
智彦 | いや、なんでもないんだ。ただ、毎日毎日、こんなことばかりだなぁ、と思ってさ。 |
人魚 | そうね、一週間休みなくレッスンだもんね、作戦が成功するには、たまには息抜きも必要かな? |
智彦 | そうしようよ。 |
人魚 | じゃぁわかった。鬼ごっこしよう。 |
智彦 | えっ、おにごっこ? |
人魚 | そう、今私達の中ではやりなの。じゃぁ、智彦が鬼! |
| se.水辺を走る音 |
智彦 | あっ、ずるいじゃん。 |
人魚 | (少し遠くで)いいじゃない、あたし、足がないから智彦君より走るの遅いんだから! |
智彦 | じゃ、捕まえに行くよ! |
| se.人間が走る音 |
人魚 | イタっ。 |
智彦 | うわっ |
| se.倒れる音 |
智彦mono | シャロンは突然つまずいた。そこに被さるように、俺もつまずいてしまった。 |
| se.心拍 |
| 顔と顔が近づく。心臓が張り裂けそうだった。そう、俺はもう、シャロンに夢中だった。それ以外のことがどうでもよくなるくらい、夢中だった。自分でもその衝動を抑えきれなかった。 |
| se.波の音 bg. |
人魚 | ごめんなさい。 |
智彦 | いや、別にいいんだよ。そ、そりゃ誰だってつまずくさ。それに… |
人魚 | それに? |
智彦 | なんでもない。 |
| P. |
村の人 | あんれぇ、あそこにいるの智彦でないデカ。最近よぉみんと思ったらあったらべっぴんしゃんつれて、なにやっとるだが。えっ、おぉっ! あのべっぴんしゃん、おひれがついとるど! 人魚でなかか!? 警察に知らせっぺぇ! 携帯携帯っど。 |
| se.発信音 もすもすぅ、おまわりのはっつぁんかい? あぁ、おれだおれ。えまなぁ海辺にいるとさ。えらいことになっとるで、はやくきてけろ! |
| FO. |
SCENE4 |
CUT8 |
| se.パトカーサイレンCO. |
| se.写真フラッシュ |
| (ここからはガヤ1として使用) |
記者 | それでそれはどんな尾ひれでしたか? |
村の人 | そりゃーもう、人間の足からしたが魚の下半身になっとって、んだなぁ、50cmくれぇあるヒレだっげかなぁ。そらー、上半身は人間だったからなかなか見分けつかねーけどよ、あのでかい尾ひれは間違えねぇ。 |
記者 | 時間的には何時頃でしたか? |
村の人 | んだなぁ、朝早くだったのぉ。そんだ、6時位かのう。朝焼けでその人魚がだぁ、赤くきれぇに見えただよ。 |
記者 | ということは実際に赤かったんですか? |
村の人 | いやぁ、おらにはわかんねぇだ。後からすぐ来たクマさんに聞いてみるとよかべぇ。んじゃ。畑戻るだよ。 |
記者 | まってください! もう少し詳しくお話を聞かせてください! |
村の人 | (ここからはガヤ2として使用) |
教授 | はーい、どいてどいて。ぼうや、坊やは危ないから入っちゃだめだよ。 |
部下 | 教授! お疲れさまです。 |
教授 | おぅ、おつかれ。どうだ、血液や毛髪は採取できたか? |
部下 | それが、屋外ですから風に吹かれて全くありません。 |
教授 | そうか、そりゃブラウンのCMよりきついな。で、発見者は? |
部下 | はい、今現在、新聞記者の質問に答えてる最中です。 |
教授 | そうか、じゃ、それはあとにして、人魚と一緒にいた坊主は今どこだ? |
部下 | それが、その… |
教授 | まさか、調べていないんじゃないだろうな。すぐつかまえてレポートをたたきあげろ! そうすれば生態が解明する。この村を虱潰しに捜せ! |
部下 | はっ、了解しました! |
教授 | 他に資料になるものはないのか!?(ガヤにかぶせるようにして) |
智彦mono | それから1週間の間、村中は大騒ぎになった。マスコミや研究所だけじゃなく、警察、消防も併せて動き出したのだ。もちろんその間、シャロンは一度も姿を現さなかった。おれも、マスコミの攻撃をさけて、家に閉じこもりっぱなしだった。 |
SCENE5 |
CUT9 |
智彦mono | ようやく村が静まった頃、シャロンの様子を見に浜辺へ行ってみた。 |
| se.道路沿いクルマの通過音、浜辺の音 |
人魚 | (遠くから呼ぶ声)智彦くーん。 |
智彦 | あっ、シャロン。 |
| se.駆け寄ってく |
人魚 | 智彦くん、ごめん。私が見つかりさえしなければ。 |
智彦 | いや、いいんだ。それより、大丈夫だった? |
人魚 | 私は平気…。そんなことより、これ、受け取ってください。 |
智彦 | 竪琴? |
人魚 | そうですね、私達はマーメイドハープと呼んでるけど。 |
智彦 | これを使うと海の中に潜れるとか? |
人魚 | いいえ違います。これは人魚界に伝わる伝説のハープで千年に1個しか作れないんですよ。人魚以外の動物がこの弦をはじくと願い事がひとつだけ叶うんです。 |
智彦 | じゃぁ最初からこれを使って王女を助ければいいのに。 |
人魚 | これは本当は持ち出してこれないんです。私が勝手に…。 |
智彦 | いいのかそんなことして。 |
人魚 | いいんです。こうなれば王女を助けるために手段は選べません。それにもう。どうせ私は処刑される身ですから…。 |
智彦 | えっ? どうして、どうしてシャロンが処刑されなきゃなんないんだ? |
人魚 | 前にも言いましたよね。他の人間に見つかるとこの世で生きていけないって。 |
智彦 | どうしてだよ! どうして処刑されなきゃならないんだよ! いいのかよ、そんなみすみす処刑されて! そうだ、俺と一緒に逃げよう。どこか遠くに、誰もいない、無人島に! |
人魚 | いいんです。逃げても無駄ですから。どこに逃げても私はもうすこしで処刑されるんです。それに、ここは罠が仕掛けられました。でられないんです。もう、逃げても無駄です。私は人間に捕まるか、処刑されるか…、どちらが早いかはもう時間の問題なんです。 |
智彦 | シャロン…。 |
人魚 | さようなら智彦さん。わたし、もう行きます。もうこれ以上迷惑かけられません。(遠くから)智彦さんが、良い人で本当に良かったです。王女様のことをよろしくお願いします。(もっと遠くから)さようなら。 |
智彦 | シャロン! |
SCENE6 |
CUT10 |
智彦mono | 俺はしばらく考え込んだ。そう、このハープをどう使おうか…。本当なら、紅実子ちゃんを助けるために使わなければならないのに、俺の心はシャロンを助けたい一心だった。どんな願いも叶えてくれるなら、シャロンを助ける事もできる。いっそ、シャロンを助けた方がいいんじゃないか。そんなジレンマに悩まされながら時は過ぎていった。 |
| se.学校のガヤ |
友人 | おい、智彦、聞いたか? |
智彦 | なにが? |
友人 | 何がって、紅実子ちゃんだよ。昨日、交通事故で死んだんだって。 |
智彦 | エッ? 嘘だろおい。 |
友人 | そんな嘘ついてどおすんだよ。昨日のニュース見なかったのか? |
智彦 | ちょっとおれ、今日学校休む。代返でもしといて。 |
| se.走り出す |
友人 | おい! どこ行くんだよ! |
智彦mono | 俺は、人一人さえ助けることのできなかった自分が、悔しくて悔しくて仕方がなかった。もっと早くハープを使っていれば、こんな事にはならなかった。シャロンになんて言えばいいんだろう。そう思いながら、いつもの海に来て、シャロンを待っていた。もちろん、彼女は来るわけもなく、日が沈むまで海を眺めていた。 そんな俺の悲しみも知らずに、村は大騒ぎになっていた。 |
SCENE7 |
CUT11 |
| bg.ニュースオープニング(この曲はオリジナルです。) |
キャスター | こんばんは7時のニュースです。今日未明、人魚の発見騒ぎになった北浜村で、沖に仕掛けた網から、本物の人魚のが発見されました。 |
| se.ニュースのTR(この曲はオリジナルです。) |
| 人魚が発見されたのは今朝早くで、体長は158センチ、体重は48キロと、人間とほぼ同じで、尾びれの色はピンク色です。この人魚はかなり弱っているらしく、これから西浜水族館で生態の解明と回復の治療を行い、順調にいけば一般に公開するとのことです。しかし、他の水族館からの引き合いが相次ぎ、回復後どの水族館に移されるかはまだ未定です。 |
| se.テレビを消す音 |
智彦 | シャロンを見せ物にする気か! そんなことに、そんなところにシャロンをいかせてたまるか! 西浜水族館だな、今から自転車で行けない距離じゃない! |
CUT12 |
| se.マスコミのガヤ、フラッシュ |
研究所員 | はいどいてください。搬入します。はいよけてください。 |
智彦 | ちょっと、ちょっとどけてください。 |
研究所員 | きみ、ここは関係者以外立入禁止だよ。 |
智彦 | すいません。その人魚、僕の知り合いなんです。返してください。 |
研究所員 | 何寝ぼけたことを言っているんだ! このガキをつまみ出せ! |
智彦 | うわっ。まて、そんなことするな! それは、それはおれの…。 |
マスコミA | さっき聞いた噂なんだけど、この後オークションにかけられるそうだね。 |
マスコミB | あぁ、本社からの連絡だと、その買い付けに水族館が殺到してるらしいよ。 |
マスコミA | あぁ、俺もその話聞いたよ。どうやら取引額1億以上だってさ。 |
マスコミB | 今日のトップ記事だな。 |
| se.FO. |
SCENE8 |
CUT13 |
智彦mono | 世間中が大騒ぎした。みんながシャロンを見たがった。水族館はシャロンの気も、もちろん俺の気も知らず、早く見せ物にしようと、シャロンの体力を回復させるのに必死だった。しかし、事件はそれだけじゃなかった。 |
| se.深夜の犬の遠吠え |
犯人 | これが人魚か。良い顔してお眠りの様子だ。わるいが、死んでもらおうかな。西浜水族館が有名になられちゃ、俺たちの水族館の知名度が下がるんでね。 |
| se.切られる音 |
人魚 | きゃー! |
犯人 | うらむなら、おまえの人気を独り占めにした西浜水族館を恨みな。 |
| se.切られる音(ディレイ) |
CUT14 |
キャスター | 昨日深夜、西浜水族館に何者かが侵入し、飼育中の人魚に刃物のようなもので数カ所を刺し、殺しました。警察では水産関係者の仕業と見ていますが、殺人ではないとして捜査を進めています。 |
智彦 | なんだよ、みんなでよってたかって! 見せ物にしたからって何になるんだ! 殺したからって何になるんだ! 何だよ! 教えてくれよ! そんなことして何になるんだ! くそっ! |
CUT15 |
智彦mono | いつの間にか、自転車に乗っている自分に気がついた。水族館に向かう方向だった。 |
| se.自転車のブレーキ、走る音 |
智彦 | シャロン! |
智彦mono | そこには無惨な姿のシャロンがいた。前までオットセイかトドがいたような檻の中に、シャロンが横たわっていた。 |
智彦 | シャロン、起きてくれよ。もう一度、もう一度俺に笑って見せてくれよ。な、シャロン。 |
研究所員 | はい、どいてどいて。 |
智彦 | 何するんですか! |
研究所員 | それはこっちの台詞だ。これからこいつを死体解剖する。 |
智彦 | ちょっと待ってください。こいつは、いや、シャロンは… |
研究所員 | はい、どいたどいた。 |
智彦 | まて、何するんだ! おい、まてー! |
SCENE9 |
CUT16 |
| se.海岸 |
智彦mono | おれは、やはりいつもの海岸に来ていた。いつもと違うのは、涙が止まらないことだった。涙が止まるまでなき続けようと思った。 そして、涙が止まった瞬間。その悲しみは、とてつもない憎悪となり、心の中からこみ上げた。 |
智彦 | くそっ、なんだよみんな自分のことしか頭にないんだぜ! くそっくらえだ! 何で人魚なのに人間と同じ扱いをしないんだ! 同じ感情を持つ生き物なんだぞ! 自分が良ければ人魚はどうでも良いのか! 人間なんて、人間なんていなくなってしまえばいいんだ! そうだ、そうだよ。人間がいなければ人魚はきれいな海に住めるんだよ。かんたんじゃんか、人間がいなくなればいいんだよ。地球から人間がいなくなればいいんだよ。 マーメイドハープよ!この世の中から人間を消し去ってくれ! |
| se.ハープを奏でる |
SCENE10 |
CUT17 |
キャスター | 臨時ニュースをお伝えします。日本時間の午前11時、現地時間で午前6時、インドで発生した原因不明の病原性ウイルスはその後、空気感染により東南アジア全域に広がり、多数の死者と発病者がでている模様です。WHO世界保健機構ではこのウイルスをデットアローX-807と名付け、原因究明と予防方法の解明に全力を尽くしていますが、現地に向かう関係者が次々と発病し、究明は難航するものと見られています。厚生省の発表によると、日本に蔓延するのも時間の問題であると見て調査を進めています。 |
CUT18 |
| bg.CI |
智彦 | はっはっはっはっは! 思い知ったかにんげんどもめ! 今までいろんな悪を尽くしてきた罰だと思え! この調子で行ったら後2日で人間は全滅だぜ! はっはっはっはっは! |
| bg.FO. |
CUT19 |
| se.がや |
広報 | (メガホンからでる音) 住民のみなさん。落ち着いてください。そのまま家で待機してください。窓を閉め、なるべく換気をしないでください。はい、そこの人たち、外にでないで中にはいりなさい! |
| se.がやFO. |
キャスター | 現在、病原性ウイルスデットアローX-807はついに日本に上陸し、日本中を混乱の渦に巻き込んでいます。厚生省によると、症状としては突然せき込んで倒れ込み、呼吸が困難になるとのことです。感染を未然に防ぐために症状がでた人のそばに近づかないよう注意を呼びかけています。ゲホゲホ。 |
| se.倒れ込む そのまませきこむ |
AD | だっ、大丈夫ですか? |
ディレクター | おい! 近づくな! カメラ回せ! とり続けろ! |
CUT20 |
| bg.CI |
智彦 | はっはっはっはっは! やっと日本に来たか。まってたぜ。このまま日本を、いや世界中を滅ぼしていけ! そうすれば! そうすれば! ウッ。 |
| se.倒れ込む ゲホゲホ。なんだ、この症状は。ゲホゲホ。息が! 息ができん! もしかして、これがデットアローX-807なのか? ゲホゲホ。何で頼んだ俺が死ななきゃならないんだ。俺も…、人間…、だったのか…。 はぁ、はぁ、シャロン。これで、おれは、君の元へ、逝けるよ。 |
人魚 | (リバーヴ)智彦さん! |
智彦 | (死にそうな声で)シャロン、ごめんよ、許してくれ、こうなったのもぜんぶ俺のせいだ。 |
人魚 | もう、謝らないでください。どうせ、作戦は失敗ですから。あなたにハープを渡してしまった私が悪かったんです。 |
智彦 | 悪いのは、おまえじゃない! すべて、すべて人間が… |
人魚 | じゃぁ、王女だけでも、紅実子さんだけでも救ってくれなかったんですか? |
智彦 | 王女だか、なんだか、俺にはわからないよ。おれはただ、シャロン、おまえを助けてやりたかった、処刑されてほしくなかったんだよ。 |
人魚 | 私は! 私はどうなってもかまわなかったんです。王女を、王女を助けてくれればそれで、 |
智彦 | なんでだよ、俺は、俺はおまえのためにここまでしてやったんだぞ! 人の気も知らないで! シャロン。おまえは今の今まで俺の気持ち、考えたことあるのかよ。 |
人魚 | そんなこと…いわれても。私はただ、王女を助けることが使命ですから…。智彦さんの気持ちまでわかりません。ただ、私が悪かったんです。もう終わったことですから…仕方ありません。 |
智彦 | シャロン…。ごめんよ。ひどく言い過ぎたよ。でも、おまえは悪くない。悪くないよ。ごめんよ。本当に、ごめん…よ。ウッ。 |
| E.A.(この曲はオリジナルです。) |
人魚mono | さようなら。わたしは、海の泡になります。 |
| se.波 |