Scene1 | |
cut1 | SE 花火風景 |
征太郎 | これはまた・・・・見事ですね・・・・ |
記者 | でしょう?二代目松宮東助の誕生だって世間じゃ大騒ぎなんです。 |
征太郎 | 松宮東助? |
記者 | ご存じありませんか?今から10年前に花火業界を一世風靡したと言われる有名な花火師ですよ。今や伝説化されていますね・・・・ |
征太郎 | へぇ・・・・伝説の花火師、か・・・・ |
| SE FO BG |
征太郎Mono | この花火によってこの先忘れられない出会いが待ちかまえていることなど当時の私には考えつきようもなく、今はただその美しくはかない幻の花に魅入られながら伝説の花火師松宮東助の興味に胸を躍らせていた・・・・ |
TA | 紅幻花 |
| BG FO
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Scene2 | |
cut1 | SE ドア ノック音 |
省吾 | 失礼します。レポートここに置いておきますね。先生、どうしたんですか?ぼうっとしたりして。 |
征太郎 | 松宮東助、か・・・・ |
省吾 | えっ。 |
征太郎 | あっ。いや・・なんでもない。ご苦労だったね。 |
省吾 | 松宮東助ってあの伝説の花火師のことですか? |
征太郎 | 知っているのかい? |
省吾 | ええ。彼の花火を見ましたから。あの美しさは忘れられないなぁ。先生も彼の花火を見たんですか? |
征太郎 | いや。実はその・・・彼の名前を知ったのも先月打ち上げられた花火がきっかけでそれがあまりに見事だったから・・・・二代目松宮東助の誕生というフレーズが忘れられなくてね・・・ |
省吾 | えっ、二代目?!彼の後を継いだ人がいるんですか? |
征太郎 | うん。今花火業界はそのことでもちきりだよ。実力も先代と変わらないみたいだ。 |
省吾 | そうだったんですか・・・それは知りませんでした。でもすごいですね。あの人の二代目を語れるなんて。よほど腕のいい職人なんですね・・・・ |
cut2 | |
征太郎 | 君は松宮東助のことにくわしそうだね・・・・ |
省吾 | ええ。彼について調べたときがあったんです。僕、あの花火を見たときは眠れませんでした。まるでたちの悪い女にひっかかったみたいだ。
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Scene3 | |
| SE ドアの閉まる音 |
征太郎Mono | あの生徒に私は見覚えがあった。私が教えている社会考古学の学生だった。いつも前の席に座っている真面目な生徒だ。確か名前は田嶋省吾・・・。しかしその後私と彼が話す機会は出来ず、それから7ヶ月が過ぎた。
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Scene4 | |
| SE 走る音 |
省吾 | 先生・・・先生! |
征太郎 | えっ?あれ、君は・・・・ |
省吾 | 僕、先生のゼミに応募したんですよ。絶対採用して下さいね。 |
| SE 立ち去る音
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Scene5 | |
cut1 | |
征太郎 | 今日はこれで終わろう。 |
| SE 生徒達立ち去る音 |
省吾 | 本当に採用してくれるとは思いませんでしたよ。 |
征太郎 | 元々人気のあるゼミじゃないからね。君こそどうしてこのゼミを選んだのか不思議だよ。 |
省吾 | そんなの、先生の授業が好きだからに決まってるじゃないですか。それに僕は先生自身にも興味を持っていたんですよ。 |
征太郎 | えっ。 |
省吾 | ほら。例の二代目。まさか忘れたわけではないでしょう。 |
cut2 | |
省吾 | いやぁ、こんな身近に松宮東助のことを知っている人がいるなんて思いませんでしたよ。 |
征太郎 | 知っていると言っても私は名前ぐらいしか知らないんだよ。 |
省吾 | 僕は東助が死んでから花火の世界からは離れていたんで二代目のことはわかりませんが松宮東助のことなら少しお話しできますよ。松宮東助。享年52歳。花火師になるために京都に上京してきたのは17歳の時だったそうです。元々腕はいいと言うことで仲間内では話題になっていましたが、その頃の東助の花火は普通の職人よりやや上という感じで「稀代の花火師」と讃えられるようになるまでには間がありますね。東助が注目を受けるようになったのは40歳過ぎです。彼の花火は世間で評判になり評価されるようになった。しかし実際にその後の彼が打ち上げた花火はたった二回だけだったんです。 |
cut3 | |
征太郎 | たった二回・・・?その二回で松宮東助は名声を不動のものにしたってわけか。 |
省吾 | そうです。実際それだけの価値はありました。でもその5年後、地位も名誉も得てこれからって時に東助は自殺しているんです。 |
征太郎 | 自殺? |
省吾 | そう。不思議でしょう。 |
征太郎 | 確かに不思議だけど・・作家とかもよく自殺してるじゃないか。 |
省吾 | でも普通の死に方じゃなかったみたいですよ・・・・ |
征太郎 | 普通の死に方じゃないって・・? |
省吾 | ねぇ、先生。僕たちで松宮東助の死について調べてみませんか? |
征太郎 | なんだって?! |
省吾 | 面白そうじゃないですか。彼はなぜ死ななければならなかったのか・・・伝説の花火師松宮東助の死の謎を解く。先生だって知りたくなってきたでしょう? |
征太郎 | うーん・・でも衝撃的な死に方をした芸術家はたくさんいるし、謎があった方がおもしろいじゃないか。案外ただのスランプかもしれないし。 |
省吾 | そんなことはないと僕は思いますけど。彼の死には絶対何かがあるはずなんです。何かが。そう、彼には自殺した理由がなければいけない・・・・・ |
征太郎mono | 私はそう言った彼に何人も立ち入ることの出来ない深い執念めいたものを見たような気がした。
ひょっとしたら東助と彼との間には深い確執でもあるのではないか。 |
征太郎mono | それ以来彼と花火の話をすることはなかった。
彼と一緒に調べることは何となく私にははばかれたのだ・・・
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Scene6 | |
cut1 | |
事務員 | 野間先生。 |
征太郎 | 何か? |
事務員 | 先生のゼミに所属していた田嶋省吾が学校を中退しました。 |
征太郎 | ・・・やめた・・・・・? |
cut2 | SE ざわめき |
征太郎 | 君は田嶋君と親しかったようだけど彼は学校を辞めたっっていうのは・・・ |
学生 | そうなんですよ。あいつ急に実家に帰っちまって・・・ |
| SE FO |
征太郎Mono | いなくなった途端私は彼のことが気になりだした。なぜ彼は急に私の前から姿を消したのだろう・・・・・ |
| SE FI |
征太郎 | 田嶋君の実家って・・・? |
学生 | あいつの実家は京都なんですよ。俺、珍しいなぁと思って覚えているんです。あいつの家って代々花火屋なんですよ。 |
征太郎 | 花火屋・・・ |
| SE FO |
征太郎Mono | 家が花火屋であれば花火師のことを詳しく知っていてもおかしくはない。しかしそれだけではないようにも思った。やはり私はあの時一瞬彼が見せた情念が忘れられないのだ。あれは憎悪か・・・それとも・・・?
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Scene7 | |
征太郎Mono | それから私は稀代の花火師松宮東助について調べ始めていた。それは松宮東助自身の興味と言うよりはあの青年が見せた一瞬の感情の意味を知りたかったからなのかもしれない。
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Scene8 | |
cut1 | |
征太郎 | あの・・・少し教えていただきたいことがあるんですけど・・・・貴方は確か昔松宮東助と一緒に花火を作っていたことがありますね? |
花火師 | ああ。 |
征太郎 | 松宮東助のことについて知りたいのです。 |
花火師 | あんた、記者か作家か? |
征太郎 | いえ。あくまで個人的な興味で・・・ |
花火師 | あいつの何が知りたい? |
征太郎 | 自殺をしたと聞きました。それも普通の死に方ではないと。そんなおかしな死に方をしたのに世間で騒がれた痕跡はおろか、誰もそのことを知らないんです。貴方なら知ってるんじゃないですか?10年間彼と一緒に修行した貴方なら? |
花火師 | 東助の死か・・・。残念だが俺には何もわからん。なぜあいつがあんな風になってしまったのかさえも。 |
征太郎 | あんな風・・・? |
花火師 | 昔はああじゃなかったよ。俺と一緒にいた頃の東助はもちろん腕は良かったが普通の職人だった。あの事件があいつをすっかり変えてしまったんだ。 |
cut2 | |
征太郎 | あの事件・・・? |
花火師 | 仕込みの最中に一緒に同じ花火職人を目指していたあいつの親友が手違いで焼死してしまったんだ。 |
征太郎 | え・・・。 |
花火師 | 全身火だるまになってのたうちまわるそんな友人のすぐ側にあいつは突っ立っていた。 火がまわったのは一瞬のことだった。あいつが変わったのはそれからだ。その後のあいつはもう花火しか見えていなかった。そしていつのまにかあいつは天才花火師と讃えられるようになった。 |
cut3 | |
征太郎 | そんなことがあったんですか・・・・。でもそれは事故でしょう? |
花火師 | ああ。確かに事故だ。だが東助が死んだのはそれが原因かもしれない。あれではまるで・・・・ |
征太郎 | えっ。どういうことですか?一体彼はどういう死に方をしたんです? |
花火師 | 焼身自殺だよ。あいつは自分の弟子の前で火だるまになって死んだんだ。 |
cut4 | |
征太郎Mono | 私は彼からその事故で死んだという東助の友人の住所を聞いた。
どうやらその男の実家も花火屋だったそうだが寂れてきた家を建て直すため名のある東助達の花火屋に弟子入りしたと言うことだった
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Scene9 | |
| SE ドア |
征太郎 | すいません |
省吾 | はい。少々お待ち下さい。 |
| SE 歩く音 |
征太郎 | 君は・・・ |
省吾 | ・・・・先生・・・
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Scene10 | |
省吾 | 調べていたんですね。松宮東助のこと。 |
征太郎 | どうしてそれを・・? |
省吾 | 彼のことについて調べたからこそここにたどり着いたのでしょう? |
征太郎 | 君は最初から・・・ |
祖父 | 省吾、お客さんかい? |
省吾 | うん。僕の大学の先生だよ。
ここじゃなんですからとにかく上がって下さい。 |
| SE 歩き去る音
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Scene11 | |
cut1 | SE 歩く音 |
祖父 | はじめまして。省吾の祖父です。省吾が大学ではお世話になったようで・・・ |
征太郎 | いえ・・。彼はとても優秀な学生でしたから・・・ |
祖父 | で、今日はどのようなご用件で・・・・? |
征太郎 | あの・・・実はおりいってお聞きしたいことが・・・。 |
cut2 | |
祖父 | そうですか・・・あの子が・・・ |
征太郎 | 恥ずかしながら彼が大学を辞めたことを知って妙な好奇心を持ちましてね・・・・つい詮索するようなまねを・・・ |
祖父 | 確かにその事故で死んだ花火職人はあのこの父親です。あの子は父親っ子でしたから・・・つらかったのでしょう。父親の影を探すかのように松宮さんのことをいろいろ調べていたようでした。あの子にも言ったんですよ。『お前の父親はもう帰ってこない。お前は自分自身のために自分の人生を生きなさい。』、と。私はこの家を残すことにこだわってはいません。けれどあの子は、父さんの夢は僕の夢だ、と、そう言って帰ってきたんです。 |
征太郎 | そうだったんですか・・・ |
祖父 | あの子が私たちの意志を継いでくれる、それはうれしいのです。ただ私は自分でも分からない、何かにとりつかれたように生きているあの子がかわいそうで・・・。でも私には結局何もしてあげられないんです。
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Scene12 | |
| SE 歩く音 |
省吾 | 先生・・・ |
| SE 止まる |
征太郎 | 話は聞いたよ。二代目松宮東助の弟子入りが決まったそうだね。 |
省吾 | ええ。すべてをお話ししたら受け入れてくれました。 |
征太郎 | そうか・・・・
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Scene13 | |
cut1 | |
省吾 | 先生を巻き込むつもりはなかったんです。今更そんなことを言っても無駄ですけど。ただ父が不幸な死に方をしてから僕は父の傍らにいた松宮東助について調べ始めました。僕はあの人を恨んでいたのかもしれません。だってあの人は父が火だるまになって焼け死ぬのを助けもしないで黙ってみていたのだから。でもそう思っていたのは彼の花火を見る前でした。・・・とても見事でした・・・それだけじゃない。僕はあの花火に一瞬父の姿を見たんです。父は生きている。あの花火の中で。あの人が花火を作っていく限り。それなのに彼は父と同じように焼け死んでしまったのです。それも自ら。父の志は彼に受け継がれ、自分はそれを見ることができる、そう信じてきました。でも松宮東助が死んで僕の心は行き場をなくした。僕は一人こんな中途半端な気持ちのまま取り残されてしまったのです。 |
cut2 | |
省吾 | 納得できなかった。でもこれはチャンスでもあったんです。父や花火に対する僕のしがらみを忘れて生きるための。僕の人生をもう花火で振り回されたりはしない。そして僕は大学に入り、本当にすべてを捨て去った気持ちでいました。そう、先生のあのひとことさえなければ・・・・まさかまたあの花火と関わり合うなんて・・・・・!正確に言えばあの人の二代目の花火ですが、でも僕があの時見たあの花火は間違いなくあの人に受け継がれているんです。どうして!忘れたはずだったのに・・・・!その後の僕はまるで坂を転がるように落ちて行くだけでした。昔と同じように。先生のゼミをとるか最後まで迷ったんです。先生と話せば僕はまた松宮東助に関わることになる。だって貴方はあの花火を思い出させた張本人なんですから。でも僕は貴方の側にいきたかった。。そして僕と一緒にこのしがらみを絶って欲しかったんです。でもそれは僕の甘えにすぎない・・・せんせいにたよるわけにはいかない。あとでそうおもいなおしました。だから・・・・
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Scene14 | |
cut1 | |
征太郎 | だから君は大学を辞めてお父さんの後を継ぐことに決めた・・・君にはもう迷いはないのか・・・? |
省吾 | ないと言ったら嘘ですが松宮東助の二代目の腕は確かです。彼から学びます、あの花火を。今まで何度も忘れようとした、その度に思い知らされるだけなんです。もう、逃れられない、と。やっぱりあの花火は最後まで僕にとりついたままなんです。ならば行き着くところまでいくしかありません。 |
cut2 | |
省吾 | ほんとうにすべて散ってきえてしまえばいいのに。あの花火のように。
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Scene15 | |
征太郎Mono | 別れ際、彼の目を見て、『なれたらいいね、立派な花火師に。』そう言おうと思った。しかしその言葉はのどの奥でつかえたように声になることはなかった。
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Scene16 | |
征太郎Mono | 私の一言が知らず彼を追いつめていたのだ。そして彼は私に助けを求めていた。しかし私に何ができただろう。彼を導くことができたとでもいうのか?
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Scene17 | |
| SE ざわめき |
栄雄 | すいません。野間征太郎教授でいらっしゃいまいすか? |
征太郎 | どちらさまですか? |
栄雄 | 俺は松宮栄雄といいます。松宮東助の息子でまた弟子でもありました。今は彼の後を継いでいます。じつはお話ししたいことが有るんです。
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Scene18 | |
cut1 | |
征太郎 | どうぞ、お座り下さい。 |
栄雄 | どうも。 |
征太郎 | 省吾君の様子はどうですか? |
栄雄 | ええ。元々筋はいいですし、とても真面目ですからね、あいつは。どんどん成長してます。 |
征太郎 | そうか・・元気そうで良かった・・・ |
栄雄 | あいつが俺の所に来たときは断るつもりでいました。俺は弟子をとれるほど一人前ではありません。でもあいつは俺でなければ絶対にだめだと言って。あまりに思い詰めた様子だったんで結局こっちがおれることになりました。 |
cut2 | |
栄雄 | あいつは俺に話してくれました。親父との見えない確執を。『自分には彼が死んだ理由を知る権利があるはずだ。もし知っているのなら教えて欲しい』そう言われました。 |
征太郎 | 君は知っているのか?その原因を? |
栄雄 | 親父は俺の目の前で死んだんです。あいつには時期が来たら教える、そう言ってあります。いずれ語らなければならないでしょう。その前に貴方に親父の死について知ってもらいたいのです。 |
征太郎 | 私に? |
栄雄 | あいつが言うんです。先生にも教えてあげて欲しい、と。でなければ先生もつながれたままだ。これを知れば先生と僕とのつながりは切れてしまうけど先生を巻き込んだのは僕だし、あの人は僕とは違う。自由にならなければならない、と。 |
cut3 | |
栄雄 | 俺の親父が有名な花火師になったのはあいつの父親が死んだ後でした。いえ、その死がなければ俺の親父が花火師としての名声を手に入れることはできなかったでしょう。親父は自分の親友が炎に包まれてもだえ苦しんでるのをじっと見ていました。狂ったように花火を作り出したのはその後です。けれども親父が本当に満足できる花火は作れなかったようで結局打ち上げた花火は二つだけです。親父は生前よく言っていました。『俺が作る花火は普通の花火であってはいかん。人が燃え尽きる前に見せる一瞬の業火や。その中にある究極の美や。俺はそれを見たんや。見たからにはつくらなあかん。それが俺の宿命や。』・・・・・親父はとりつかれていたんです。・・・・・彼岸の炎に。 |
cut4 | |
栄雄 | けれど親父にも限界がありました。自分ではほんとうに望む花火は作れない、そう考えていたようです。一方、俺の方にも迷いはありました。このまま親父についていっていいのだろうか、と。俺ははっきり言って親父のようにはなりたくなかった。親父はそんな俺の葛藤も見抜いているようでした・・そしてあの日、『お前が迷うのはあの炎を知らないからだ。その中にある美しさを知ればお前の迷いなどなくなるだろう。私の跡を継ぐためにはあの炎を見なけりゃいかん』そう言って、俺の目の前で親父は自らの体に火をつけたんです。
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Scene19 | |
征太郎 | そんな・・・そんなことがあっていいのか・・・・ |
栄雄 | 俺は親父に夢を押しつけられたんです。そして気づけば俺は二代目松宮東助です。もうこんな世界からは足を洗おう、人は生きながら修羅に陥ってはいけない、ましてや花火。一瞬の美しさはあってもやがてはかなく消えるもの。後には何も残らない、所詮は現世の夢・・・そう思いながらも花火を続けている自分がここにいるのです。だって俺の中では常に親父の死に様が繰り返されているのですから。地獄でした。俺はどちらにも行けませんでした。あいつが俺を訪ねてくるまでは。
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Scene20 | |
栄雄 | 俺があの時見た炎はまだ形に出来ていません。でもそのうち貴方にもいずれ見てもらう日がくるかもしれません。俺やあいつが打ち上げた花火を。
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Scene21 | |
征太郎Mono | 私は彼が人混みに紛れて見えなくなっていくのをずっと見送っていた。一瞬華やかな花が私の視界に咲いた。確かにそれは私の中の暗闇をあでやかに染め上げはしたけれど。しかしそれはあっけなく散って消えた。
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Scene22 | |
征太郎Mono | 省吾の父親はその命をもって永遠の花火を作り上げたのだろうか。いや、それは東助の命か?どちらにしても彼らの花火は一瞬の永遠を作り上げてはかなく散っていったのだ。 いや、それとも・・・・・? |
回想 | もう、のがれられないんです。ならば行き着くところまで行くしかありません・・・・・ |
征太郎Mono | その先を考えるのは私はいやだった・・・
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Scene23 | |
cut1 | |
| SE 花火風景 |
征太郎Mono | その後、二代目松宮東助の花火が世に出たという報道も風聞も私は聞かない。夏が訪れ、夜空一面に咲き誇る色とりどりの華麗な花を見ると、私はかつて生徒であったあの青年に思いを馳せる。一瞬の美しさを見せてはかなく散っていく花を見ながら、私はそこにあの青年の命が業火となって映し出される幻を見た。そしてその度に私は果てしない深淵に足を踏み入れたことを知り、怯えるのだった。 |
征太郎Mono | 今もその恐怖は続いている。 |
EA | |
fin.