ラジオドラマ「iruka」
脚本演出 村上昇平
SCENE1
BG. 海中 PART1
主人公MONO 都会というビルの塊、人々が洪水のように押し寄せてくる。彼らは皆何かに追われて忙しそうだ。僕自身もその人の波にのまれていた。知らないうちに…。
SE. 波音
TA.  iruka
 
SCENE2
CUT1
主人公MONO その頃の僕は焦っていた。親元を離れ、予備校に通うため東京まで出てきた。けれど成績は上がらずじまい。どうしようもないいらだちや不安を抱えて、その日も過ごしていた。
 
CUT2
SE. 大都市のノイズ
SE. 人混みのガヤ
主人公 やっばいな、遅刻かよ。次の授業には間に合ってくれよ。
SE. 走る音
主人公 あっ
SE. 倒れる音
通行人 いってーな、気を付けろ!
主人公 す、すいません。あー怖かった。
 
CUT3
イルカ 何急いでるの?それにしても泳ぎ方下手だねー。
主人公 はぁ?
イルカ 下手くそって言ったの!か・な・づ・ち!
主人公 お前誰なんだよ!それに下手って何のことだ!
イルカ 私?さあ誰でしょうね。下手なのは泳ぎ方。見てらんないんだもん。こうやって泳ぐんだよ。
 
SCENE3
CUT1
BG. 海中 PART2
主人公MONO 僕の前に突然現れたその少女は、そう言うと人々が行き交う交差点に向かい歩き出した。そして、人々の間をするり、するりと抜けていく。その姿はまるで自由に海を泳ぐイルカそのものだった。
 P
 僕はずっとその様子を目で追ううちに、自分が海の中にいるような錯覚にとらわれた。
 
CUT2
SE. 街のノイズ
イルカ どう?こんなものかな。
主人公 どうって…君は何であんな事を。
イルカ 泳ぎたかったから。それと、あなたに泳ぎ方のお手本を示すために。
主人公 さっきから泳ぐって一体何なんだ!
イルカ 見ててわからなかったかな?私はあの人波を泳いでいたの。
主人公 確かに俺にもそう見えたんだ。イルカ…そうイルカが泳いでるみたいだ。どうしてなんだ。
イルカ さあどうしてでしょう。理屈こねるよりはあなた自身が泳いでみたら?
主人公 さっきからなんなんだよ、泳ぐって。それに俺には予備校が…あーもう間に合わねえや。(ため息)
 
CUT3
イルカ 可哀想だね、時間にも流されてるよ。
主人公 可哀想?俺が?
イルカ そう、人の波にも時間の波にものまれてる。
主人公 え、人の波?時間の波?のまれてる?
イルカ のまれて流されちゃってるよ。
主人公 まてじゃあどうすれば、どうすれば泳げるんだ!?
主人公MONO はっ、何言ってるんだろう俺…。でも、あんなふうにイルカのように海の中を泳げたらって、彼女を見たとき思ったんだ。馬鹿だな俺。
 
CUT4
イルカ 馬鹿じゃないよ、泳げるよ。
主人公 今、俺の心を…。
イルカ いいから、目をつぶって、力を抜いてみて。心の中に海を思い浮かべて…あなたが一番好きな海を。
 
SCENE4
CUT1
BG. 海中 PART3
イルカ(セリフにエフェクト) わかる?今のこの感覚が、海の中なんだよ。後は自由に、好きなように泳いでみなよ。
主人公 体が軽くなるのを感じた。そっと目を開けてみた。そこに見えたのはコンクリートやアスファルトではなく、生命(いのち)あふれる海だった。
 P
イルカ もう、言わなくてもわかるよね、私が伝えたかったこと。
主人公 俺は首を大きく振った後、夢中になって泳いだ。すべてが消えていく気がした。苛立ち、不安、焦り、そして時間さえも。
 P(BG.のみ流す)
イルカもう、一人でも泳げるね。また君が都会で泳げなくなったら、ここにおいでよ。この海で私と泳ごう。すべてを取り戻すために。
EA.



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